『遅刻・・・』

まあ、なんと嫌な響きだろう・・・。

誰しも何回かはあるはずだ。かくゆう私もサラリーマン時代にはずかしながら何回か遅刻した経験がある。




朝通勤していると、駅までの道すがら、『この世の終わり』みたいな顔をして猛烈にダッシュしている人を良く見かけたものだが、

「はは~ん。やっこさんやりやがったな・・・。」

などと、ほくそ笑む人も少なくない。(私だけ?)




遅刻する人というのは、100%朝が弱い人でしょう。かくゆう私もその一人であるが、そういう人達は遅刻がしたくてしているわけではない!!できれば、いつも起きる時間より早めに目が覚め、暖かいコーヒーでも飲みながら

「おっと、もうこんな時間か。」

などと言いながら、口笛を吹きつつ通勤したい。そう願っているはずだ。

しか~し!!遅刻する人の大半は、そう朝起きられないのである・・・。
遅刻しないために目覚ましを何個もセットし、携帯のアラームもセット。おまけにオーディオのアラーム機能まで駆使して床に着くものである。しかし、悲しいかな目が覚めると

何故全部止まっている

のであろうか?

ランボーが敵地に潜入する際、入念に武器を手入れして弾薬をセットするかのごとく、

「えーと、目覚ましは5分おきに鳴らして、携帯はその5分後で良いか。コンポは最後の手段だから、これは音量を大きくしてっと・・・。よし!これで大丈夫!!」

などとぬかしながら行った一連の作業を完全無視するかのごとく、静寂に包まれた朝をむかえるのである。


全然大丈夫では無いではないか・・・。



遅刻には2パターンがある。1つは、自分が起きようとする時間よりもだいぶ遅れて目が覚めたのだが、急いで支度してダッシュをかませば、『ギリギリ間に合う』パターン。

しかし、これは1日で消費するであろうパワーを、この30分程度で全部使い果たし、会社に着いたときには、おそらくボロぞうきんの様になっている事を覚えておかねばならないであろう。


もう一つが、『完全遅刻』というやつである。朝目覚め、時計を見る。

「・・・・・・・・・へぇっ!?」

まず、自分の目を疑いもう一度見る。

「・・・・・・・・・。」

そして次に、この時計は間違っているであろうと、訳のわからん錯覚をおこし、違う時計を見る・・・。

「・・・。やってもうたぁ・・・。」

そう、やってもうたである。どう考えても間に合わない。『どこでもドア』を駆使したところで間に合うはずも無い。だってもう始業しちゃってるんだもん!!やってもうたの『完全遅刻』である。

しかし、皆さんも経験があると思うのだが、『完全遅刻』の場合、妙に落ち着いている自分がいることに気づく。

(どうせもう間に合わないし、いまさら急いだところで一緒かぁ)

などと、自分勝手な妄想にふける人は少なくないと思われる。
人間とは不思議な生き物だ。


当時の私の場合、『完全遅刻』して目が覚めた時は、まずタバコに火をつけ

「はぁ~ やっちまったけど、なんて言い訳しようかな。いっそののこと休もうかな・・・。」

と、言い訳を絞り出すために、1時間を費やすこともありえないとは言い切れない。

出来るだけ早く支度し、出来る限り急いで会社に行けばいいものを!!と、お叱りの声を受けそうだが、実際皆さんも私と一緒であるということを信じて疑わないのである。



私の住んでいる関西では、漫才等で遅刻の言い訳をネタにする芸人さんも多い。
上司 「何で遅刻したんだ!!」

部下 「さっき、会社の前で地底人と会って話し込んでました。」


上司 「今何時だと思っているんだ!!」

部下 「信じてもらえないかもしれませんが、昨日宇宙人に連れて行かれて、それでさっき地球に帰ってきたんですけど、宇宙人の星との時差が約2時間あったんで、時計をそのままにしてたのがいけなかったのかなぁ。」

等である。 ここまでくると、

「もういいから早く仕事に就け!!」

と、上司も半ばあきらめモードで言ってくれそうなものだが、現実はそう甘くない。こういういわゆる『返し』を言える環境がこのお堅い日本の会社にあるのだろうか?


そして、このような言い訳を駆使し、社内を爆笑の渦に巻き込む人って本当にいるのだろうか?

それがいるのである。正確に言うと、いたのである。そう、私の昔の会社の先輩鈴木さん(仮名)だ!!

会社を辞めてからしばらく経つが、彼の言い訳根性は社内の伝説になっている。
ある意味私は彼に惚れているといっても過言ではない。






ある日社内は、珍しく朝から忙しい業務に追われていた。それまでもちょくちょく遅刻していた鈴木さんだが、10時半になってもいっこうに来る気配もない。

「鈴木はどうしたー!!」

社長の怒鳴り声が響く。

「いやぁ・・・まだ来てないんですよ。電話しても留守電なんで・・・。」

一緒にチームを組んでいる鈴木さんの部下が、社長に説明していたその時である。




「おはようございま~す。いや~えらいめあったわ。」


鈴木さん!!遅れてきてその爽やかさって一体!?

社員全員が面食らっていると、すかさず鈴木さんは社長の机の前へ行き、



「遅れてすんません。実はですね、朝の5時くらいに

家のありとあらゆるじゃぐちからいっせいに水が勢いよく噴射


しまして 、もうびっくりですわ!!家中びしょびしょ!!閉めても閉めても出てくるんですわ。
その勢いたるやほんまにすごくて、正直おぼれるところでしたわ。
すぐ水道屋電話したんですが、なんせ朝5時でしょ。来るわけないし、かといってこのままにして会社に来られる訳でもないし、今の今まで水道屋とケンカですわ。あっ言っときますけど、電話も水でやられまして、連絡もできなかったんで、ほんますんません。」


話が終わったとたん、社内が爆笑の渦に包まれたのは言うまでもない。



ああ・・・鈴木さんよ!!あなたはこの言い訳を一生懸命ひねり出してきたのですね。
後でばれないように

少し部屋に水をまいてくるくらいの事

もやってきているでしょうあなたなら!!

爆笑に包まれる中、私一人感慨にふけって、何食わぬ顔で席に着き部下に指示を出しているあなたに

「弟子にして下さい!!」

と心の中でさけんでいた・・・。


しかしあろう事か次の日・・・師匠は連チャンでやってしまうのである






「鈴木はどうしたー!!」

社長は昨日、半ばあきらめで鈴木さんの言い訳を許したのであろう。今日の怒鳴り声は、何か憎しみが現れている気がしたのは私だけであろうか?・・・
そう、鈴木さんは今日も遅刻。2日続けての大遅刻である。


私は密かに期待していた・・・。

(今日はどんな言い訳をしてくれるのであろうか?いや、2日続けてだから、さすがに今日は正直に「寝坊しました」とか言うのかな?でも私の師匠はそんな人では無い!!きっと昨日水道だから、今日はガス漏れとかで笑わせてくれるはずだ!!)


そんなことを考えていると




「おはよーございまーす。は~ありえへん!!」


主役登場である。しかし、私の予想は良い意味で裏切られた。




「鈴木!!チームのリーダーであるお前が2日連続で遅刻とは何事だ!!」

社長の鼻息は荒く、本当に怒っているようである。さあ、どうする師匠!!??


「いやーほんますんません。いやね、時間通りに出社して会社に向かってたんですよ。これマジで!!そんでもって、梅田のスクランブル交差点で信号待ちしてたら、いきなり10トントラックが俺らが信号待ちしているギリギリを走ってきたんすよ。そしたら




俺のネクタイがトラックの荷台のすきまに挟まってひきずられた

んすよ!!びっくりでしょ。ありえへん!!そんで10メートル位引きずられて、ネクタイが切れてことなきを得たんですが、今の今まで運転手のおっさんとケンカですわ!!あっケガは無かったんで、ほんますんません。」



説明は不可であろう。やった!!やってくれたな師匠!!社内は昨日よりも大爆笑に包まれている。


ああ・・・なんというすばらしい言い訳魂!!あなたは

「よし!!今日はこれで行こう!!」

と、たぶんで考えてきたのでしょう・・・。
そして言い訳の為にいらないネクタイをチョイスし、

半分ちょん切って出社されたのですね・・・。



社内が爆笑に包まれる中、社長だけが固まっていたのは言うまでもない。




そしてそれからもちょくちょく遅刻した鈴木さんは、私達を十分楽しませて会社を去っていった・・・。
そして伝説となった・・・。


鈴木さんが会社を辞めて10年がたつが、今でも私はおつきあいさせて頂いている。